2025年11月、中国テック大手BaiduがERNIE 5.0を正式リリースした。2.4兆パラメータという巨大規模、MoE(Mixture of Experts)アーキテクチャ、推論時に3%未満のパラメータしかアクティブにならない効率性——。
公式発表だけを見れば、GPT-5.1やGemini-2.5-Proに匹敵する性能を持つ「中国最強のAI」だ。
しかし、本当にそうなのか?
本記事では、ERNIE 5.0の公式発表の信憑性を検証し、中国AIを利用する際に考慮すべき5つのリスクを分析する。AI選定を検討している企業担当者、開発者にとって必読の内容だ。
ERNIE 5.0の公式発表内容
まず、Baiduが発表した内容を整理しよう。
| 項目 | 公式発表 |
|---|---|
| パラメータ数 | 2.4兆(2.4T) |
| アーキテクチャ | MoE(Mixture of Experts) |
| 推論時アクティブ率 | 3%未満 |
| モダリティ | テキスト・画像・音声・動画(オムニモーダル) |
| フレームワーク | PaddlePaddle(自社開発) |
| 提供形態 | クローズド(API経由のみ) |
Baiduのwang Haifeng CTOによれば、ERNIE 5.0は「ネイティブ・オムニモーダル」であり、従来の「後付け融合」ではなく、統一アーキテクチャで理解と生成を統合しているという。
40以上のベンチマークで、言語・マルチモーダル理解能力がGemini-2.5-ProやGPT-5-Highに匹敵すると主張している。
信憑性の検証:公式発表は本当か?
ここからが本題だ。Baiduの公式発表は、どこまで信頼できるのか?
✅ 信憑性が高い点
| 項目 | 根拠 |
|---|---|
| LMArenaでの評価 | スコア1460で世界8位、中国モデルでトップ10唯一 |
| 数学能力 | GPT-5.2-Highに次ぐ世界2位(一時的) |
| ドキュメント理解 | OCRBench、DocVQAでトップスコア |
| 株価反応 | 発表後BIDU株が10%上昇、約3年ぶりの高値 |
第三者評価機関であるLMArenaでのスコアは客観的な指標として信頼できる。また、市場(株価)の反応も、投資家が一定の実力を認めた証拠と言える。
⚠️ 懸念が残る点
| 懸念点 | 詳細 |
|---|---|
| 「世界2位」は一時的 | AIランキングは日々変動。数日後には順位が変わる可能性 |
| 自社ベンチマーク偏重 | 「40以上の評価」の詳細が不明確。自社有利なベンチマーク選定の可能性 |
| クローズドモデル | オープンソースではないため、第三者による検証が困難 |
| 実際の利用報告が少ない | エンタープライズ向けのため、一般ユーザーのレビューが限定的 |
特に注目すべきは、「世界2位」という主張が数学能力のみ、かつ一時的なランキングであることだ。総合力でGPT-5やGemini-2.5を超えているわけではない。
中国AIを利用する5つのリスク
ERNIE 5.0に限らず、中国発のAIサービスを利用する際には以下のリスクを認識しておく必要がある。
リスク1:データプライバシーの懸念
無料版のERNIE Botでは、入力データが学習に使用される可能性がある。さらに深刻なのは、音声・画像データが生体認証情報として保存される場合がある点だ。
| データ種別 | リスク |
|---|---|
| テキスト入力 | 学習データとして利用される可能性 |
| 音声データ | 声紋として保存・分析される可能性 |
| 画像データ | 顔認証データとして保存される可能性 |
| 企業機密 | 中国サーバーに保存、アクセス可能性 |
リスク2:政府検閲とコンテンツ制限
ERNIE Botは中国政府の検閲対象だ。以下のトピックについては回答が制限または拒否される:
- 天安門事件
- 香港民主化運動
- 台湾独立
- チベット・ウイグル問題
- 中国共産党への批判
ビジネス用途では問題にならないケースも多いが、「何が検閲されているかわからない」という不透明性自体がリスクだ。
リスク3:地政学的リスク
米中対立が激化する中、以下のリスクが存在する:
- サービス停止リスク:米国の制裁強化によるアクセス不可
- データ移転制限:中国データ安全法によるデータ国外持ち出し制限
- レピュテーションリスク:中国AIの利用が取引先から問題視される可能性
リスク4:技術的依存リスク
ERNIE 5.0はクローズドモデルであり、Baiduのプラットフォームでのみ利用可能だ。
- オンプレミス導入不可
- ファインチューニングの自由度が低い
- Baiduのサービス変更に依存
- 料金改定リスク
リスク5:ベンチマーク詐称の可能性
中国AI企業の一部で、ベンチマーク結果を誇張する事例が報告されている。ERNIE 5.0についても:
- 自社に有利なベンチマークのみ公開
- テスト条件の不透明性
- 競合モデルとの公正な比較の欠如
これらを考慮すると、公式発表の数値を額面通り受け取るべきではない。
市場コンテキスト:なぜBaiduは必死なのか
ERNIE 5.0の発表を理解するには、中国AI市場の競争環境を知る必要がある。
中国AI市場シェア(2025年)
| 企業 | シェア |
|---|---|
| Alibaba(通義千問) | 35.8% |
| ByteDance(豆包) | 14.8% |
| Huawei(盘古) | 13.1% |
| Tencent(混元) | 7.0% |
| Baidu(ERNIE) | 6.1% |
驚くべきことに、「中国AI先駆者」と言われてきたBaiduは、現在シェア5位に沈んでいる。Alibabaに大きく水を開けられ、ByteDanceやHuaweiにも抜かれた。
ERNIE 5.0の大々的な発表は、巻き返しを図る「起死回生の一手」という側面が強い。これは、発表内容に「盛り」がある可能性を示唆している。
結論:ERNIE 5.0を使うべきか?
以上の分析を踏まえ、ERNIE 5.0の利用を検討する際の判断基準を整理する。
✅ 使っても良いケース
- 中国市場向けサービスの開発
- 中国語処理が主要な用途
- 機密性の低いデータのみ使用
- ドキュメント理解・OCRが主目的
- Baiduエコシステム(検索、地図等)との統合
❌ 避けるべきケース
- 機密データの処理
- グローバル展開を前提としたサービス
- 政治・歴史に関わるコンテンツ生成
- 長期的なプラットフォーム依存を避けたい場合
- 取引先が中国AIの利用を問題視する業界
代替案の検討
| 用途 | 推奨代替 |
|---|---|
| 汎用LLM | Claude、GPT-5、Gemini |
| 中国語特化 | 通義千問(Alibaba)、DeepSeek |
| オープンソース | Llama 4、Qwen、Mistral |
| ドキュメント処理 | Claude、GPT-4o with Vision |
まとめ
ERNIE 5.0は技術的には一定の実力を持つモデルだ。LMArenaでのスコア、数学能力、ドキュメント理解などで、中国モデルとしてはトップクラスの性能を示している。
しかし、以下の点を認識しておく必要がある:
- 「世界2位」は誇張:数学能力の一時的なランキングであり、総合力ではGPT-5やGeminiに及ばない
- クローズドモデルの限界:第三者検証が困難で、公式発表の信憑性に疑問が残る
- 5つのリスク:データプライバシー、検閲、地政学、技術依存、ベンチマーク詐称
- 市場の文脈:シェア5位からの巻き返しを狙った「起死回生の発表」
結論として、ERNIE 5.0は「中国市場向け」または「中国語処理特化」という明確な目的がある場合にのみ検討すべきだ。それ以外のケースでは、Claude、GPT、Geminiなどのグローバルモデルを選択する方が安全かつ実用的である。


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